宮澤賢治・作 及川賢治・絵
目次
あらすじ
いちょうの実はみんな一度に目をさましました。
そしてドキッとしたのです。
今日こそはたしかに旅立ちの日でした。
お母さんのイチョウの木から千人の子どもたちが旅立つ日がやってきました。
お母さんはそれを悲しんで、扇形の黄金の髪の毛をみんな地面に落としてしまいました。
イチョウの木の枝では別れの前にあちこちで子どもたちが最後のお話をしています。
「僕、水筒に水をつめておくのを忘れちゃったよ」
「僕は水筒とハッカ水を用意したよ。少しやろうか」
「あたしはどんなところへ行くのかしら。今までわがままばかり言ってごめんなさいね。」
「あたしだってわからないわ。 あたしこそ、許してちょうだいね」
「ぼくはいちばん初めに王様のお城を訪ねて、お姫様をさらっていった化け物を退治するんだ」
「ぼくの靴小さいんだ。面倒くさいからはだしで行こう」
「そんなら僕のと変えよう。少し大きいんだ」
「困ったわ。新しい外套が見つからないんですもの」
「困ったわね。とても寒いからどうしても見つけないといけなくってよ。私のを時々貸してあげるわ。凍えたら一緒に死にましょう」
突然、黄金の光が矢のように飛んできました。
輝く光の中で、北風が冷たい風をゴーッっと吹きました。
旅立ちの瞬間です。
「さよなら、おっかさん」「さよなら、おっかさん」
子どもたちはみんな一度に枝から飛び降りました。
まるでそれは雨のようでした。
お日様は燃える宝石のように東の空にかかり、あらんかぎりのかがやきを悲しむ母親の木と旅に出た子供らと投げておやりなさいました。
『いちょうの実』について
この本の絵を描いた及川賢治さんは同じ名前であることに「自分と同じ名前なのでずっと意識していました」と述べていました。
- みんな離れ離れになる前のひと時のイチョウの子どもたちの色々な言動をみてとれます。
- お母さんから離れることに不安を感じている子
- 飛び立ったらやりたいことを色々想像してワクワクしている子
- お互いが無事に飛び立てるように思いやり思いやられる子たち
いよいよ旅たつときのイチョウの子どもたちのそれぞれの異なる表情がとても印象的です。
そして、母親の悲しみを包み込む太陽の光のあたたかさ。
こんな素敵な絵と宮沢賢治の特徴的な文章の化学反応で、とても素晴らしい絵本になりました。
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