野村 たかあき 作・絵/柳家小三治 監修
あらすじ
さて、これからはじまるのは、たった一粒のみかんに大変な値段がついてしまうお話です。長年こつこつ働いてきた番頭さんが真夏の江戸をかけ回ります。一両およそ十万円とすると千両って・・・?どうぞおつきあいください。
江戸のあるお店の若旦那が病気で寝こんでいます。
お医者によれば若旦那は「何か胸につかえているものがある」とのこと。
それを吐き出せばすっかりよくなるそうです。
若旦那がもったいぶって番頭に言うには・・・「みかんが食べたい」とのこと。
ところが・・・この真夏の盛りにみかんなどあるはずがありません。
案の定、番頭が江戸中走り回ってもどこにもみかんはありません。
そんなとき「万葱」という問屋にみかんがあるかもという話を聞きました。
さっそく番頭が飛んでいってみると、たくさんのみかんが倉にありましたが、夏の暑さで全て腐っていました。
しかし、必死で探せば天も味方をしてくれるのか、倉庫の奥からたった一つだけ無傷のみかんが見つかりました。
「さて、おいくらになりますでしょうか?」
「千両になります」
「せ、千両?!」
しかし人の命には代えられません。
千両のみかん一つを買って、若旦那に届けました。
若旦那大変喜んでくれて、みかんをむいて十袋のうち三袋を番頭さんに渡しました。
「一つはおとっつあんに、一つはおっかさんに、残りの一つはお前が食べておくれ」
番頭さん 三袋のみかんを眺めながらしみじみ思いました。
「この三つで三百両・・・私が一生汗水たらして働いても、三百両なんてもらえるもんじゃない・・・」
三百両・・・
三百両・・・
三百両!!!
番頭、みかん三袋もって、いなくなりましたとさ。
『千両みかん』について
古典落語の演目である『千両みかん』の絵本です。
実はこの落語は「江戸バージョン」と「上方バージョン」と2つのバージョンがあり、オチが若干違っています。
この絵本は「江戸バージョン」です。
ちなみにここに出てくる果物問屋「万葱」は2012年までは万惣商事として、高級果物の販売やフルーツパーラーの経営を行っていたそうです。