2004年にスタートした「世界一受けたい授業」も16年目を迎えました。
当時のコンセプトは「有名なあの本がたった15分で分かる!」
【その時に紹介された本の一部はこちら】
今回の授業は明治大学教授の斎藤孝先生が講師を務めてくれました。
"読書好きの有名人が紹介する「今だからこそ読んでほしい おススメの1冊を紹介」"です。
その前に斎藤先生から一冊の本が紹介されました。
以前紹介した五木寛之『大河の一滴』が22年前の発売にも関わらず再びベストセラーになったそうです。
その中でも反響が大きかったエピソードがこちらです。
昔の中国に屈原という役人がいました。
彼は正義感が強く清廉潔白で「世の中で一番大事なのは正義だ」と常に思っていました。
しかし彼のその性格が災いして周りから反感を買ってしまい、国を追放されてしまいます。
屈原が「なんて世の中は汚れきっているんだ」と大河のそばで落ち込んでいると船に乗った猟師に声をかけられました。
屈原:「今の世の中は汚れきっている」「なぜ私が国から追い出されるんだ」
猟師:「なにかできることはなかったんですか?」
屈原:「私の行いは正しい」「世の中の汚れにまみれるくらいならこの川に身を投げて魚のエサになった方がましだ」
すると猟師は「川の水が清らかに澄んだ時は自分の冠のひもを洗えばよい」
「もし川の水が濁った時は自分の足でも洗えばよい」と言い残し去っていきました。
大河の水は時に澄み、時に濁り、いや濁っている時の方が多いかもしれません。
そんな時にどうしたらよいのか五木寛之さんはこんなメッセージを送ってくれました。
濁水をただ嘆くな
どうにもならないと思った時に、泣くのはいい、しかし泣き言は言うな
どんな時でもできることはある
できることからやっていくことが大切ではないか
生きる力になる本
『記憶喪失になったぼくが見た世界』坪倉優介
大阪美術大学に入学して2ヶ月後に交通事故に遭い記憶喪失になってしまった作者の坪倉優介さん。
両親の顔も過去の記憶や使っていた言葉などすべて忘れてしまいました。
母親と一緒に写っている写真を見ても全く思い出せないのですが、こう感じていたそうです。
「ここにいるのはかあさんだよ」と教えられえて「かあさん」という言葉に胸がとても熱くなったそうです。
これは坪倉さんが見たあるものの感想です。
けむりがもやもやと出て中を覗くと、光るつぶつぶがいっぱい入っている。きれい。
こんなきれいなものどうすればいいんだろう?
これは何でしょうか?
【正解】
ごはん
坪倉さんにとってはそもそも食べ物かどうかも分かりませんでしたが、食べ方を教えられて噛んでみるととても幸せな気分になりました。
事故から1か月経って坪倉さんは感覚を言葉で表現できないことに困っていました。
例えばこんなエピソードがあります。
坪倉さんがお風呂に入っていると言葉にはできない、ほわっとしたなんだかいい気分を感じました。
ところが、お母さんがお風呂を沸かし忘れて水風呂に入っていても「熱い」「冷たい」が表現できずに、体が震えていてもそれがなぜか分かりませんでした。
ある日、坪倉さんが一晩中寝ないで何かを考えていました。
それは何だったのでしょうか?
【正解】
人間は何をするために生きている?
坪倉さんのこの言葉を聞いてお母さんはこう思いました。
「目的もなく生きているのは、本当の意味で生きているとは言えない」
そこで生きる目的を探してほしかった両親は坪倉さんを事故から3か月に大学復帰させました。
全てを忘れてしまった坪倉さんにとっては見る物や体験するものが新鮮で感動の毎日でした。
自動販売機のことを知っただけで「人間ってこんなすごいものを作れるなんてすごいんだなあ」
このように少しずつ生きる意味を感じていったのです。
多くの記憶をなくした坪倉さんでしたが、体が覚えていたことはなんだったのでしょうか?
【正解】
絵を描くこと
坪倉さんの才能は失われてはいませんでした。
そしてさらにこんなことにも気がつきました。
嬉しい気持ちで見る空と悲しい気持ちで見る空は、同じ青でも全く違う
心にも色があるんだ
それからも記憶は戻らないままでしたが、坪倉さんは大学で生きる目標を見つけました。
それは染め物です。
様々な色を生み出していく大人気の着物の染め物職人になった坪倉さんのポリシーは全て自然の植物を使うこと、しかも切られて捨てるようなものばかりです。
その理由は「一生懸命生きている植物を自分の勝手なこだわりで切れない」からだそうです。
切られて命が無くなった植物たちをこういう形で生まれ変わらせることができる。
30年経った今でも事故前の記憶は戻っていません。
坪倉さんはこう語っています。
この本からこんなことを学ぶことができます。
- 人間はいくらでも立ち直れる
- 何気なくすごい話して過ごしている毎日にもたくさんの幸せがつまっている
- 何気ない日常も新鮮な気持ちで見れば、世界は色あざやかで素晴らしい時を過ごしている